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2010 年は、ショパン生誕 200 周年という記念すべき年であり、また 5 年に 1 度ポーランド・ワルシャワで開催されている、ショパンコンクールの年でもあった。

2005 年のショパンコンクールからあっという間に 5 年経ち、再びショパンコンクールを見にワルシャワに戻って来た。

ただ前回と違い、2010 年のショパンコンクールでは、日本人や韓国人、中国人などアジアからのコンテスタントは誰一人としてファイナルに残っていなかった。その他にもショッキングなことが…。


ファイナルは、10 月 18 日から 20 日までの 3 日間、ここ Filharmonia Narodowa で連日夕方 6 時から行われた。

ホールエントランスに入ると、まずはロビーで第 16 回ショパン国際ピアノ・コンクールのこの大きなポスターに迎えられたが、2005 年よりも幾分華やかさに欠ける印象を受けた。
 

さて、僕の席は、2005 年と違い、こんなに前方の席!ワルシャワ・フィルがほんのすぐ側で、指揮者の Antoni Wit アントニ・ヴィトゥをはじめ、第 1 ヴァイオリンセクションのヴァイオリニストたちや、コンサートミストレスの Ewa Marczyk エヴァ・マルチクの表情から演奏までじっくりと見られ、さらに ピアニストの呼吸まで聞こえて来るほどの至近距離。また、コンテスタント毎にピアノが変更されるため、次にどこのメーカーのピアノが登場するのかも興味深かった。

さて、ファイナルの 3 日間は、それぞれのパフォーマンスを聴いて、感じたことをざっとメモしておいた。

Monday, Oct. 18:

Miroslav Kultyshev, Russia, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
Beautiful, but a little simple and flat

Daniil Trifonov, Russia, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
Exquisite and poetic! I thought his performance was the best of four finalists on this day.

Paweł Wakarecy, Poland, Piano Concerto No. 2 in F minor, Op. 21
He was the only finalist from Poland and played Concerto No. 2. It was a very touching performance.

Evgeni Bozhanov, Bulgaria, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
It was a dynamic performance.

Tuesday, Oct. 19:

この日は、波乱に富んだ一日だった。3 日間のファイナル中で、最も忘れられない日となった。

Nicolay Khozyainov, Russia, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
Despite that he looked youngest of all the finalists, his performance was magnificent overall. During his performance, the stage lights went on and off several times which was obviously distracting to all the performers and the audiences. I'm not quite sure what happened to the lights.


Yulianna Avdeeva, Russia, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
I wouldn't say her performance was dull, but was just fine. To be honest, it didn't leave a strong impression on me. And the stage lights failed three or four times in the middle of her performance for the second time.

インターミッションに、僕はロビーホールでたまたま側に居たポーランド人女性と会話していたのだが、彼女も同じようなことを考えていたようで。というのも、この日の Khozyainov と Avdeeva の演奏真っ只中に起こった、幾度か照明が消えるトラブル、果たして偶然にも?二人ともロシアのコンテスタント。一体何が原因だったのだろう? このようなことはショパンコンクール史上、初めてのことではなかろうか。

Ingolf Wunder, Austria, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
Wunder's performance was the greatest of all the contestants in a three-day final!

Wunder ヴンダーの演奏は、今回のファイナル・コンテスタントたちの中で一番際立っていた。ショパンというよりも、少々ベートーヴェン的なタッチではあったが、その演奏のあまりの素晴らしさに、第 3 楽章の最終パートでは既に僕はスタンディングオヴェイションの態勢になっていた。雰囲気的に、聴衆の殆どが同様の気持ちになっていたと思う。そして、演奏が終わるや否や聴衆皆が立ち上がり、割れんばかりの拍手喝采が5分程続いた。彼の演奏は、この日のコンテスタントの中で最後のステージだったが、まるでショパンコンクール自体の最後のステージのような錯覚さえ覚えた。

Wednesday, Oct. 20:

Lukas Geniušas, Russia/Lithuania, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
2nd movement was beautiful, but 1st and 2nd movements sounded a bit too aggressive.

Hélène Tysman, France, Piano Concerto No. 2 in F minor, Op. 21
She was one of the two finalists who played No. 2. Overall her expression was humble, and there were a few moments that worried me throughout her performance.

François Dumont, France, Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
It was beautiful performed but I was not overwhelmed.

 

ショパンコンクール全てのコンテスタントの演奏が終わり、終了のアナウンス。会場全員でショパンコンクールと 2 階席の審査員たちに向け、大きな拍手が起こった。

そして終わるや否や、2 階席で聴衆していた人たちはすぐに Martha Argerich マルタ・アルゲリッチの周りに集まり始めサインを求めているのが、1 階からでもよく見えた。そして僕も 2 階へ。
 

マルタ・アルゲリッチを実際に見たのはこれが初めてというわけではなかったが、ここまで間近に見たのはこれが初めてだった。

他の審査員はもう既に退散していたが、サインや写真を求めるアルゲリッチの熱狂的ファンが彼女をしばし留まらせた。ピアノ愛好者にとって、アルゲリッチはいつでもどこでも超特別な存在なのである。

 
ロビーには、1927 年に開催された第 1 回目のショパンコンクールから 2005 年の第15 回のものまでの各ポスターと、その回の優勝者の写真が展示されていた。こちらは、1955 年の優勝者、ポーランドの Adam Harasiewicz アダム・ハラシェヴィチ。 そして、1965 年の覇者、マルタ・アルゲリッチ。
 
今回のショパンコンクールの全工程が終了後、この 2 週間、審査員を務めていた Adam Harasiewicz アダム・ハラシェヴィチがどのような感じでステージを観ていたのかと、彼が座っていた審査員席に暫し座ってみた。 それから、Martha Argerich マルタ・アルゲリッチがほんの先ほどまで座っていた席にも。こんな感じで審査していたのか、と最後の余韻に浸った。
 

それから一旦ホテルに戻り、審査発表を聞くために、10 時頃にまた Filharmonia Narodowa に戻った。ただ、待っても、待っても、審査員たちは現れず待ちくたびれてしまった。そして会場には人や報道陣が増える一方。結果が出るのにそこまで難航していたのであろう。

そしてちょうど深夜になった頃、やっと 審査員長の Andrzej Jasiński アンジェイ・ヤシンスキをはじめ、審査員たちが姿を見せた。
 

ただ、結果発表のアナウンスが聞き取りづらく、会場にいた殆どの人たちは少々混乱気味だった。それからすぐに正面のプロジェクタに結果が表示され、皆そこに進みだした。

そして、このプロジェクタのスクリーンの真ん前まで行き、それに目を凝らすと、
「え?本当にこれが今回のショパンコンクールの結果?」
というのが最初の感想。驚くものであった。その結果を見ていた他の人たちも同じようなことを考えていたことが困惑した表情からも感じ取られた。


第 16 回ショパン国際ピアノコンクールの結果は下記のようであった。
1位
Yulianna Avdeeva ユリアナ・アヴデーエワ ロシア
2位
Ingolf Wunder インゴルフ・ヴンダー オーストリア
2位
Lukas Geniušas ルーカス・ゲニーシャス ロシア/リトアニア
3位
Daniil Trifonov ダニイル・トゥリフォノフ ロシア
4位
Evgeni Bozhanov エフゲニ・ボジャノフ ブルガリア
5位
François Dumont フランソア・デュモン フランス
 

あの19 日の最終演奏者で、鳴り止まぬ拍手喝采、さらにスタンディングオヴェイションまで起こった Ingolf Wunder インゴルフ・ヴンダーは 1 位ではなかったのである。Trifonov トゥリフォノフというわけでもなかった。この意外な結果にはかなりショック。ヴンダーは、『コンチェルト賞』 と 『幻想ポロネーズ賞』 も受賞したが、それでも彼が 1 位ではなかったという結果は腑に落ちない。

翌日の各社新聞でも、この結果については賛否両論の記事が多く見られた。ただ、やはり音楽評論家やコメンテーターによる記事は、反論が殆どを占めていたのだが。

ということで、第 16 回ショパン国際ピアノコンクールはこれでおしまい。前回 2005 年のショパンコンクールに比べると、色々と驚きや予期せぬことがあったショパンコンクールであったが、良くも悪しくもこれがショパン生誕 200 年という記念すべき年に開催されたショパンコンクールなのであった。

 
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