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ベルリンに到着し、ホテルの近くでランチを済ませた後、今夜開催されるマルタ・アルゲリッチのコンサートの場所を確認しに行った。

向かう途中、the Gendarmenmarkt ゲンダルメンスクウェアにある the Konzerthaus コンツェルトハウスという巨大なコンサートホールの前を通ったが、これは今夜あるコンサートホールではなく通過した。

 

そして数分後、the Deutsch Staatsoper Unter den Linden ベルリン国立オペラハウスに着いた。

因みにこの Unter den Linden というのは、ベルリンでも大きな通りの一つで、"under the linden trees" "菩提樹通り" という意味。この大通り沿いには、ベルリン、そして国の歴史的な建造物がいくつも建ち並んでおり、スプリー川からブランデンブルク門の間に、この国立オペラハウスの他、ベルリン大聖堂、ドイツ歴史博物館、フンボルト大学、ヘドヴィヒ聖堂、アメリカ大使館、フランス大使館などがある。

通りの中央はゆったりとした散策路になっていて、僕がベルリン滞在中もこの大通りはよく歩いた。

     
 

さて、ベルリン国立オペラハウス、堂々とした正面だが、他ではあまり見ないピンク色の建物だった。

ここが今夜、マルタ・アルゲリッチのコンサートの開かれるホール。

 

ワクワクし 重いドアを開け、中に入ってみたが、開場時刻までまだ何時間もあり、ロビーにはさすがに誰もおらず静かだった。

 
 

19時少し前に国立オペラハウスに戻り、いよいよ開場。まだ人があまりいない間にと、この歴史的な建物を見て回った。

ホールに入った瞬間、圧倒された。コンサートホールというよりも、文字通り オペラハウス。豪華絢爛で座席も 4層になっていた。

 

開演時刻が近づくにつれ、僕の周りの座席も徐々に埋まり始めた。オーディエンスはベルリンのみならず、国の内外からも来ているようだった。

 

さて、ベルリン訪問の最大の目的は、マルタ・アルゲリッチ、しかも彼女の弾く曲が "プロコフィエフのピアノ協奏曲 第3番"、さらに、世界で最も歴史あるオーケストラの一つである Staatskapelle Berlin シュターツカペレ・ベルリンを率いる音楽監督にダニエル・バレンボイム。はるばる日本からでも見に行く価値の十分あるコンサートだったのだ。

開演の時刻が迫りオーディエンスは皆着席し、アルゲリッチ、そして バレンボイムがステージに現れるのをひたすら待っていた。僕も今か今かとドキドキしていた。

19:30, ついにマルタ・アルゲリッチとダニエル・バレンボイムが揃って現れた。最初から割れんばかりの熱狂的な拍手。そして、"プロコフィエフのピアノ協奏曲 第3番" の演奏が始まった。

 

マルタ・アルゲリッチの驚異的な演奏。どっぷりと引き込まれ 圧倒された、やはり。決して裏切ることのない彼女のパフォーマンスは言葉では良い表せないほど天晴れなもので一生忘れられない!

ホールの天井が落ちてきてしまうのではと思うほどの拍手喝采は、いったい何分続いたであろうか。興奮したオーディエンスは次から次に立ち上がり 皆がスタンディング・オヴェイションで拍手は続き、その拍手はやがて​アンコールの手拍子へと変わり、まだまだ止まぬ手拍子。アンコールを殆ど "強要" するかの如く感じてしまうほど熱狂的なオーディエンス(僕もその 1人であるが)の止まぬアンコールの手拍子の嵐のあと、アルゲリッチとバレンボイムは仲良く、まるで幼なじみの2人のように現れた。

そして、一緒にピアノの椅子に静かに腰掛けた 2人はいったい何を弾くのだろう、と思っていると、バレンボイムが、 "Bizet, Kinderspiele" と言い放ち、2人の演奏が始まった。(ビゼーの作品で、日本では 小組曲 「こどもの遊び」 から "小さな旦那さまと小さな奥さま" とタイトルが付けられている)
スリリングでダイナミックな "プロコフィエフのピアノ協奏曲 第3番" とは打って変わり、穏やかで心地の良いピアノ連弾曲。アルゲリッチとバレンボイム、年を重ねてきたこの 2人がまるで過ぎし日の子供の頃を偲んでいるように見え、どこか愛おしく切ない思いになってしまい、目頭が熱くなった。僕の周りの人たちも同じように見えていたのだろうか、涙を拭く人の姿がちらほら見られた。

2人の演奏が終わると、温かな拍手が起こり、その後 インターミッションになった。ホールから皆次々と出て行き、僕も外の空気を吸うため外へ。ロビーは人で溢れていた。本当に色々なところからこのコンサートを観に来ているようで、日本人の姿もあちらこちらに見られた。

15分のインターミッションが終わり、ホールの席に戻った。 次の演奏が始まろうという時刻になっているのに、先ほどまで席に座っていた人の姿が無い。前、横、後ろ、こっちを見てもあっちを見ても人が減っていた。明らかに彼らの目的はマルタ・アルゲリッチの演奏で、彼女の演奏が終わってしまったら目的達成で もうそこにいる理由は無いのである。まさに “ミッション完了!” 僕にはそれも十分理解できた。数十人ほどだろうか、もう帰ってしまったのだった。

空席が目立ちながらも、プログラム後半、オーケストラによる演奏が始まった。ただ、自分でも次の演奏は誰の作曲した何という作品だったのかすら覚えておらず、また聞いたことすらない作品で、演奏が始まってからプログラムを再度見てみると、Jörg Widmann イェルク・ヴィトマンという作曲家の、"Babylon Suite for Orchestra" "オーケストラのための組曲バビロン" というもの。 この日のプログラム後半の曲であるし、全く聞いたこともない曲でありながらも自分を納得させ、半ば義務的に座席に座って聞いていたが、その数分後、1人、さらにまたひとり…、とオーディエンスが出て行くのが見えた。そしてその瞬間、もしかして彼らの中にはマルタ・アルゲリッチの熱烈なファンがいて 彼女を追って探しに行ったのでは…、と感じた。
その後は落ち着かなくなり、もしかしてまだアルゲリッチはこの建物のどこかにいるのでは… と思い始め、いてもたってもいられなくなり、演奏が始まって間も無かったが席を立ち、ホールから出た。

ロビーに出ると 数名スタッフがおり、その中の 1人に、マルタ・アルゲリッチに会いたく、今どこにいるのか、と尋ねると、この国立オペラハウスの裏側に位置する白い建物に居ることを教えてくれた。なんとその建物は国立オペラハウスの地下から繋がっていて、演奏家やスタッフのみが使用できる地下通路になっているというのだ。

 

果たして彼の言っていた建物はあるのだろうか、そこに辿り着けるだろうか、どうやってその建物だと確信できるのだろうか、といったことが頭をよぎりながらも国立オペラハウスから外に出て裏へ向かった。外は肌寒く 暗真っ暗で、ところどころに僅かな街灯が灯っているだけ。足早に裏の方に向かうと、ぼんやりとあかりの灯る白い建物が見え、近づいて行った。

恐るおそるドアを開け中へ入ると、6人ほどがペンと紙を持って立っていた。明らかにアルゲリッチが出て来るのを待っている人たち。ただ念のために、アルゲリッチを待っているのか尋ねてみると、"Yes" とのこと。

それからは、これら熱狂的アルゲリッチファンの人たち(フランス人やイタリア人)と一緒にひたすら待っていた状態だった。いつ出て来るのか、果たしてあのドアから現れるのかもわからなかったが、とにかく我慢強く待った。

1時間以上経過し、もしかしてアルゲリッチはもう帰ってしまってここにはいないのではなかろうか…と思い始めた頃、ついにマルタ・アルゲリッチがドアの向こうから現れた!数人のスタッフを引き連れて。僕たちファンが待っていたことに少し驚いた表情をし、そしてすぐに笑顔に変わった。

ドキドキしながら僕の順になり、日本から遥々駆け付けたこと等、アルゲリッチと少し会話を交わし、一緒に写真を数枚 撮ってもらった。感激と興奮で舞い上がってしまい、気絶しそうだった。

アルゲリッチに ありがとうを告げ、外に出た時には既に 22:30 を過ぎていた。夜も更け静まり返り、時折通り過ぎる車以外誰もいない町を、急ぎ足でホテルに帰った。

 
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