演奏曲目は昨日と全く同じであるものの、今夜また マルタ・アルゲリッチのあの演奏が観られると思うと、本当にワクワクしていた。 ベルリン・フィルハーモニーは ライトで照らされ、幻想的な姿になっていた。 |
黄金に輝くサーカスのテントの中に入るような気分で、ドキドキしながら入って行った。 | |
開演時刻になるまで、ロビーを隅々見て回った。 クラウディオ・アバド、マウリツィオ・ポリーニ、ズービン・メータ、そして イェフディ・メニューイン、これほどの歴史的マエストロたちが一同に会している写真も大きな円柱に貼られていた。皆揃ってここにいたのだ!まさに黄金時代だったあの頃。 |
ロビーだけでもかなり広く、その造りもユニークで、歩いて回るだけでも楽しかった。階上のロビーから ふと下のロビーを見下ろすと、どんどんとオーディエンスが入って来ているのが見えた。 昨夜の国立オペラハウスでのアルゲリッチのコンサートも観に行き、今夜もまたここに観に来ている 僕のような熱狂的なアルゲリッチ・ファンはこの中にいるのかな? と眺めているのもまた楽しかった。 |
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さぁ、大ホールに入ると、その特殊で複雑な構造に圧倒され、若干目まいのようなものさえした。これまで ヨーロッパでも色々なコンサート・ホールを見てきたが、このようなホールはかつて見たことがない。 一般的なホールとは異なり、演奏者はホールのど真ん中に位置しており、それを取り囲むように客席が何層にもなって連なっている。 |
傾斜したフロアに客席の列は幾重にもなり、その列はさまざまな方向から中心に向かって配列されている。言わば、建築芸術の中に居るような感じだった。 コンサートが始まる前から、ホールの構造に興奮しキョロキョロしていた。 |
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僕の予約していた座席はそこまで前の方ではなかったものの、ブロックの中では一番前の座席であったためかなり快適で、また、いざ座ってみると ステージまでわりと近く感じた。 目の前にはチケット等を置けるちょっとしたテーブルのようなものもあった。 |
マルタ・アルゲリッチとダニエル・バレンボイムが現れ、昨日と同じプログラム、プロコフィエフの "ピアノ協奏曲 第3番" の演奏が始まった。 演奏は圧巻の一言。さらに、演奏会場としてもここは最高の音響で、ピアニスト、指揮者、コンサート・ホールと、どれをとっても至高のものであった。 |
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昨日同様、アルゲリッチによるプロコフィエフの演奏後はインターミッションとなり、オーディエンスはロビーにどっと溢れ出て行った。お喋りをしに、喉を潤しに、または外の空気を吸いに。 ただ僕は昨日のように、"僕にとっての" コンサートはこれでおしまい。マルタ・アルゲリッチの演奏が終わり、僕のミッションも完了。ホールに戻ってから、聞いたことも関心も無い次の曲目によって、今のこのアルゲリッチの演奏の記憶・感動を不純なものにされたくなかった。ピュアな状態でアルゲリッチのあの姿と演奏を頭と心にずっと留めておきたかったのだ。多くの人で賑わい溢れ返ったロビーを後にし、ベルリン・フィルハーモニーから出た。 |
シーンと静まり返った夜。少しだけ吹いている風が心地良く、夢を見ているような感じがした。 ベルリンでの僕のこの "連日マルタ・アルゲリッチ コンサート" は一生の思い出となるであろう。 |
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